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ドキドキしながらお姉さんに顔を近づけていると、彼女はこれまたとんでもない提案をしてきた。
「あの、どうせなら4人一緒にデートしませんか? お互い家族相手にはしゃべれるようですので、通訳という形で……」
「よ、4人でデート……ですか?」
「はい。弟の会話を私が妹さんに伝えて、妹さんの会話をあなたが弟に伝えるっていう。それなら会話の内容もわかりますし、何より話す練習にもなると思うんです」
「ど、どうでしょう……。オレはいいとして、二人は……」
「オ、オレは別にいいよ」
気付けば、オレたちの背後に弟くんがいた。
顔を赤く染めながらソッポ向いている。
「あ、あの声聴きながらデート続けられるんなら……」
そう言いながらどんどん顔を真っ赤に染めていく弟くん。
ヤバい、なにこの子。めっちゃ可愛い!
「……私もいいよ」
さらにその隣には妹までいた。
どうやら、弟くんの影に隠れて妹も聞いていたらしい。
それには弟くんもビックリしていた。
忍びか。
「私も……あの声で会話してもらえるなら……」
モジモジしながらつぶやくように言う我が妹。
ああ、可愛い!
なんでこんなに可愛いんだ、こいつは!
弟くんも可愛かったけど、妹は世界で一番可愛い!
やっぱり弟くんにはあげたくない!
……なんて言ってる場合じゃなかった。
「あの、二人ともOKみたいなんで……」
そう言うと、お姉さんは親指を突き出して「じゃ、決まりね」とウィンクしてみせた。
カ、カッコイイーーーッ!!
このお姉さんも、めっちゃカッコイイ!
………。
あれ?
もしかしてこの中で一番イケてないの……オレか?
妹や弟くんはリア充カップルだし。
お姉さんは綺麗でカッコよくて光り輝いてるし。
オレは上下とも黒のジャージだし……。
………。
ま、まあ、もともとは妹のデートが上手くいくか見に来ただけだから、別にいっか。
「このあとどうする?」
「私、動物園行きたい」
二人の会話を通訳しながら喫茶店を出ると、お姉さんがこっそりと耳打ちしてきた。
「あの。もしよろしければ、連絡先を教えてくれません?」
「へ? 連絡先?」
「また二人がデートするようなら、連絡取り合ってついていきたいですし」
「え、あ、ああ、そうですね」
「それに……」
「それに?」
「同じ境遇の人とこんなところで出会うなんて……思っても見なかったし」
「それはオレも思いました」
「なんだか運命感じちゃいました」
「は、はいぃ!?」
思わぬセンテンスに一瞬意識が飛ぶ。
「できれば、弟たちがいない時にも会いたいです」
ふふふ、と笑いながら二人のあとを追いかけるお姉さんの姿を見て、オレは思った。
もしかしたら、今後はオレがコミュ症になるかもしれない、と。
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