隣のキミ

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「私達、これ以上仲良くなってはいけない」 私に告げられた彼の瞳は、揺れていた。 月に一度の、かったるい席替え。隣の席に座ったのは菜津の彼氏、幹也くんだった。 「幹也、ちょっとつまんないんだよね」 言いながら、ただ単にマウントを取っていただけだと思う。軽音部の部長を務める彼は、話してみたら優しかった。会話中、真っ直ぐな大きな目に吸い込まれそうな感覚を抱いたときもあった。私達はとても気が合って、毎日よく喋っていた。 高校からの帰り道、大須商店街を通るのが私の日課だ。ここはいつもお祭りみたいで、どんな1日だったとしても気分を上げてくれる。 その日もいつもと同じで、制服のまま服屋さんをいくつか覗いて通りに出た。 「由夏!」 聞き慣れた声に振り向いた。幹也くんだ。 「何やってんの?」 「服、見てた」 「大須、よく来んの?」 「いつも商店街通ってから帰ってるの。幹也くんは?」 「ドラム教室が商店街にあってさ。その帰り」 私達は、自然と並んで歩いた。 「ここ、お祭りみたいだよな。週1で来るけど、いつも見るだけで楽しい」 「わかる。なんか、元気になれるよね」 「…元気、ねぇの?」 彼の顔を見上げた。やはり彼の目はいつも真っ直ぐで。簡単に視線を逸らすことは許されない気がした。 由夏、調子乗ってるよね。 菜津とその取り巻き達が私に聞こえるように大きな声で話しているのを、当然私は聞いてしまっていた。 原因は明らかだ。幹也くんと仲良くしているのが、気に入らないのだろう。 幹也くんと話しているのは楽しい。幹也くんの隣は、居心地が良い。でも、人様の彼氏を奪う趣味は私には無い。 「あのね、幹也くん…。私達、あんまり親しくしない方が、いいと思うの」 「何だよ、それ」 掠れた声でぼそっと呟くと、彼は目を逸らし、長いため息をついた。 「幹也くんは、菜津の彼氏でしょ。だから…」 そんなに悲しそうな顔しないでよ。 この胸の奥の苦しさを、私はどうすればいいのだろう?
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