プロローグ

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プロローグ

「……お前、俺の契約恋人にならないか?」  築60年のオンボロアパート。  6畳ほどしかないそこは私の借りている部屋だ。  職業柄、色んな資料が置かれ、本来よりも狭く感じる部屋には、私の他に数人のガタイのいい男がいる。  そして目の前には、手に持った紙を揺らしながらニヤリと笑うスーツのイメケン。  彼の髪が微かに濡れているように見えるのは、残念ながら目の錯覚ではない。 「まさか、ノーなんて言わないよな?」  男はずいっと私に顔を近づけると、さらに笑みを深くする。  こんな状況でなければ美形の笑顔にときめいていたかもしれないが……状況が状況なだけにそんなお花畑のような思考にはなれない。 「言うわけないでしょ。女優ってなんてすごいんだって思わせてやるんだから」 「それじゃ、これからよろしくな。西明寺緋梨」  仄かな緑茶の香りを鼻腔に感じつつ、私は空になった湯呑を強く握りしめたのだった。  どうしてこんなことになったのか。  私は現実逃避をするかのように、数時間前のことを思い出すのだった。
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