150人が本棚に入れています
本棚に追加
馬鹿にするな!
「あの……粗茶ですが」
おそるおそる、男性達の前に私はお茶を置く。
詳しい話は家の中でしようか。そう言われ、私は彼らを家の中に入れていた。
いや、押し入られたの方が正確だが。
最初は狭いだこんな汚いところに若を上げるなんてとか金髪男が言っていたけど、今はそれどころじゃない。
借金。その言葉が私の頭の中でグルグルと回っていた。
確かに父親は金遣いが荒く、度々借金をしていると死んだ母から聞いたことがあった。
そのせいで、一度離婚を考えたほどとも。
私自身、ちゃらんぽらんな性格の父とは反りが合わず、母が死んで以降、一切連絡をとっていなかった。
まぁ、適当に生きているだろうとは思ってたけど、まさかこんな形で名前を聞くことになるとは。
私はついでに淹れた自分のお茶を机に置きつつ、口を開いた。
「それで、借金っていくらなんですか?」
「利子も入れてざっと500万」
「ごひゃっ!?」
聞いたことのない数字に、声が裏返ってしまった。
一体、何をしたらそんな金額の借金を抱えるんだと思ったが、見るからに闇金融の人達っぽいから、おそらく半分以上は利子のせいで膨れ上がった金額だろう。
とりあえず、私にどうにか出来る金額ではないことは分かった。
私は恐る恐る口を開く。
「すみません……私貧乏人でして。500万はちょっと……」
「それなら、この棚にあるの全部売ればいいだろ」
「これはダメです! 私の商売道具なので」
「商売道具? あんた、なんの仕事やってんの」
「女優ですけど」
私の言葉を聞いた瞬間、かろうじてスーツ男の口に張り付いていた笑みが消えた。
そして、次に浮かんだのは人を軽蔑するような、見下した嗤い。
「はっ、女優かよ。あんなウソだらけの職業、よくやれるな」
「は?」
「中身のないストーリーをただその通りに進めて、思ってもみないことをさも思ってますみたいな感じで道化を演じて、それを見た人に評価してもらう。これをウソと言わずなんて言うんだよ」
「なっ……」
「あんな人におべっかを使うだけの面倒くさい職業、俺なら大金積まれてもやらねぇな」
ぶちんっ、と何かが切れる音を聞いた。
そして、気づいた時には、私の手は近くにあった湯呑を掴み、中身をスーツ男に向かってぶち撒けていた。
「おべっかを使う? 全部がウソ? 何よ知ったような口を聞いて! 確かに物語は脚本家の方が書いてくださったフィクションよ。けどね、その物語を書き上げるのに膨大な知識と時間と力を注いで下さってるの! 私達俳優は、鮮血を注いで作られた物語を自身の出来る限りの技術と絶え間ない努力で最大限表現をして、沢山の人に楽しさや共感、感動を届けるのが仕事なの! あんたにはそれが、嘘偽りのハリボテに見えるかもしれない。けど、中には私達の演技を見て、明日の生きる糧になりましたって。自分もこうなりたいって夢を抱けましたって言ってくれる人もいるの! あんたがどう思って、何を考えようが勝手。けど、私の前で女優の仕事を馬鹿にするのは許さない!!」
はぁはぁっと肩で息をする中、ぽかんした男達に場違いながらスカッとしてしまった。
そういえば、さっき見ていたドラマに、こんな場面があった気がする。どうやら気付かずに同じことをしてしまったようだ。
「てめぇ、若になにしてくれてんじゃ!」
最初のコメントを投稿しよう!