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目立つ男
次の日、私は仕事を終えてからスタジオから少し離れた場所にある公園に向かっていた。
相手はヤクザなのだ。しかも顔が良い。
スタジオの前でなんて会って、東海林の正体がバレたりなんて知られたら、次の女性誌の表紙を飾ってしまう。
そんなことになれば、二度と芸能界に足を踏み入れることはできなくなる。
それはなんとしても避けたかった。
事情を話すと、東海林は思ったよりもすんなりと了承してくれた。
「女優はスキャンダルとかめんどくせぇんだろ。それに巻き込まれてこっちにも迷惑がかかったら、契約のこともバレかねないし、何よりマスコミがうざいからな。」
ドキュメンタリーで報道されるほどだ、おそらくマスコミにはよく追い回されているのだろう。げんなりとした声を聞けば嫌だって分かる。
世界は違えど、同じ界隈の人に苦手意識を持つのはなんだか不思議な感覚だ。
「たしか、この辺りよね……」
公園に足を踏み入れ、辺りを見回し……気付いた。
(なんか、人多くない?)
ここの公園にある大きな噴水がこの前のドラマの撮影地になったとかで、聖地周りのファンが多くなっていると小耳に挟んだことはあったが……それにしても人が多い。
あっちのベンチではカップルが寄り添ってるし、こっちでは手を繋いで歩いてるし。
いま来た会社帰りらしき女性も噴水近くで待っていた男性と待ち合わせていたのか、二言三言話した後、笑顔で公園を去っていった。
確かに時間は仕事帰りと言っても差し支えないが、あまりにも多いような。
そこで思い出した。
「そうだ。ここデートスポットだ」
知識としてはあったけど、いざという時すぐに出てこないのはいかがなものか。
それは置いといて。だからこんなにもカップルが多いのだろう。
そう考えると、東海林が何故ここを指定したのか分かってきた。
木の葉を隠すなら森の中。
「契約恋人を隠すならデートスポットってわけね」
確かにここなら、カップルを装えば怪しまれずに会うことができる。
ムカつく言い方で指定してきた場所だが、色々と考えてくれていたのかもしれない。
「と言っても、本人がいないのよね……」
まさかスーツを着てくる、なんて目立つことはしないだろうけど。
そう思いながら東海林を探そうとした私の背後に影ができた。
「遅かったじゃないか」
少し低い。けど、どこか馬鹿にしたような声音。
昨日ぶりの声だ。間違える筈はない。
「遅くなって悪かったわね」
後ろを振り向くと。
そこには、絵に描いたようなイケメンがいた。
服装は、カッターシャツにスラックスとシンプルだ。
だが、パッと見た感じでも高級ブランドのものだというのは嫌でも分かる。
東海林はそれを見事に着こなしていた。
昨日はきっちと全て上がっていた前髪が、少し垂れているのもどこかセクシーで目のやり場に困る。
しかも、元々顔がいいのだ。周りの女性も東海林をチラチラと見てこそこそと話しているし、顔を赤らめている人もいる。
「……なんだ。俺の顔になんか付いてるか? それとも格好良すぎて、見惚れてたのか?」
「……」
撤回。
どこで会ってもどんな服装でも、東海林は目立つ。
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