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「誰、あれ?」
厨房から覗いて店長が松本に訊いている。
「ふふふ〜ん♪」
意味あり気に松本が笑う。お前が一番嬉しそうだな。
「女?男…だよな。滅茶苦茶あそこだけ明るく見えるな」
仕事じゃなくてもオーラがガンガンの柊木。
「恋人っすよ」
「誰の?」
チラリとオレを見る松本。
「えっ!?津々理!お前もゲイなのっ!?」
店長の問いにオレは首を傾げた。今となっては…『バイ』…か?
柊木は首を伸ばして厨房の中を覗き込んで、オレを見つけては、嬉しそうに笑っている。中に恋人がいますと顔に書いてある。
「いやいや、ダメだダメだ。松本、お前の恋人って事にしとけ」
「えっ!?」
何、顔赤くしてんだ松本。
「津々理に恋人がいるってバレたら、お客さん減っちまうだろうが」
「それもそうっすね!」
張り切ってんな、松本。
「…って事で、津々理からシュウさんに話してくれよな、俺が…恋人だって、事にするって…」
おい、お前、なに照れてんだよ。
「ああ、オレに殺されても平気な覚悟があるならな」
眉間に皺を寄せて、思いっ切りドスの効いた声で言った。
「店長、流石にそれは通用しないんじゃないっすか?」
くるりと向きを変えて松本はサラリと言う。
お前、マジで世渡り上手だな、ある意味滅茶苦茶感心した。
「まぁーそうだなぁ。あの人とお前じゃ釣り合わないか…津々理なら絵になるけどな。頼むから、津々理の恋人ってバレない様に頼むぞ」
「酷いっすね、店長」
面白くなさそうな顔でぶんむくれたが、その後は、柊木と目が会う度に思いっ切りの笑顔でぺこぺこと頭を下げる松本。
健気な松本に、ちょっと、ほんのちょっと胸が熱くなる。柊木をホントに大事にしないとな、そう思った。
笑ったり、怒ったり、泣いたり、キスしたり、抱き合ったり…
途轍もなく楽しかった。幸せに感じた。
こんな毎日が、ずっと続くと思っていた。
これから先もずっと、
柊木と一緒にいると、そう思っていた。
なのに…。
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