恋人同士になる

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 その日、柊木はいつにも増して喜び勇んで帰ってきた。玄関のドアを勢いよく開け、靴を脱ぎ捨てると急いでバタバタと走り寄る。 「津々理!津々理!」 「何だよ、騒がしいなぁ、お疲れ」  玄関から走って入ってきた柊木を、胸で受け止めてキスをする。 「店に飾ってある、君が描いた絵を見て、君と話したいというお客様がいる!」 「は?」  最初は何を言っているのか分からなかった。 「来週の金曜日、出来れば都合を付けて欲しい」  オレに抱きついたまま、顔を上げて高揚した様子で話す。金曜日は休みだったから、特に気に病む事もなく大丈夫だったが 「話しって?何だ?」  皆目見当も付かずに、眉を顰める。 「俺にも分からない。絵を描いて欲しいとか、そういう事じゃないかな!?」  オレから離れると、喜びを表現しきれない様な顔で両腕を広げた。 「マジか」  オレも思わず顔が綻んだ。 「明日、仕事の前にスーツを作りに行こう!」  オレの絵で?話し?  何だか、オレも興奮してきた。話しの内容はまだ分からないが、柊木の様子では悪い話しではなさそうだ。でも、大した話しではないかも知れないから、あんまり期待するのはよそう。  ぬか喜びになるのが嫌だった。 ◇◆◇  柊木が見立ててくれたネイビーの三揃スーツにブルーのシャツ、オレが選んだダークブラウン地に黒、赤、青のピンドットのシルクのネクタイを閉めて鏡の前に立ち、我ながらスゲーじゃん、と鏡の中の自分に眉を上げて微笑む。 「津々理、支度は出来たか?」  部屋のドアを開けると、柊木は絶句した。 「どうよ、柊木、なかなかだろー」  満足気に笑って言うと、柊木はハッと我に返ったように 「津々理、君はやはり普通の服でいいような気がする」  落ち着いて言ってんじゃねーな、それ、ただの棒読みだな。   「何でだよ?せっかく今日の為に作ったスーツだろ」 「カッコ良すぎる」  は?何だそれ。カッコいいのは今に始まった事じゃねぇ。 「ダメだ、ダメだ!これでは皆が津々理を好きになってしまう!」  そう言いながら襟を掴んでスーツを脱がそうとするから、オレは俄然抵抗した。 「ならねーよ!なる訳ねーだろ!オレ、これ気に入ったんだよっ!」  脱がせようとする柊木と、そうさせまいとするオレ。誰かこの馬鹿げた争いを止めてくれ。 「オレが柊木以外に目を向ける訳ねぇだろ?」  そう言って、柊木の口を塞いで激しく、優しくを繰り返してキスをしたら落ち着いた。 「仕方ないな。もうすぐ迎えが来るから準備しよう!」  落ち着いた柊木は納得いかないながらも、顔を赤らめて出掛ける準備を始める。    仕方なくねーから。
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