ずっと続く筈だった二人の毎日

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ずっと続く筈だった二人の毎日

   柊木に恋人がいる事はホストクラブの連中には周知の事だった様だが、相手が誰かは知らない皆んなは、オレを見て目を剥いて驚く。柊木に引けを取らない容貌に、ため息まじりなのが分かる。  店に行くのは初めて行った時以来で、柊木から名刺を貰ったヤツだと皆覚えていた。  まぁ、オレに対する処遇も凄くて流石、柊木と思わされる。柊木の後に続いて歩くオレにも、クラブのスタッフ達が揃って頭を下げ、店の隅の席に座り開店前の様子を黙って見ていた。  柊木は店長ではないが、ほぼほぼ柊木がまとめているようだった。一列に並ぶホスト達に正対して、店長と見られる人と柊木が立つ。  何やら言ってる。昨日の売り上げや、今日の注意事項とかか?  柊木が柊木に見えなかった。  今オレの目の前にいるのは、実にカッコ良くて艶っぽく、煌びやかな柊木。天然でおっちょこちょいの柊木とは別人のようで、違う誰かを見ている様だった。    間もなく開店するという事で、皆が散り始めた。オレはどうすりゃいいの?隅に座ったまま店内をくるりと見回す。 「津々理、待たせてすまない。もう少しでお話しされるお客様が来店されると思う。大きな財閥の令夫人だ、津々理の事だから大丈夫だとは思うが、失礼のないように」 「ああ」  柊木の目を見ずに答えた。    その財閥夫人とやらが来店した様で、店の中が慌ただしくなった。正面の入口からではない場所から夫人はVIPルームへ入ったらしく、柊木に呼ばれてオレもそっちへ向かう。  5、6メートル店の中を歩いただけで、あちらのテーブルの氷が少ない、あちらのテーブルのお手拭きを新しいものに、あちらのテーブルのお客様は〇〇(ホスト)を待ってるから早く、と他のホストにてきぱきと指示を出し、周りは速攻言われた通りに動いている。  家でもああなら、オレ要らねぇな、とか思ったりしながら前を行く柊木の後ろ姿を見つめた。
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