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菫のすぐ側まで来た飛雅が足を止める。
飛雅は菫をしばらく見つめる。
菫は、心臓バックバクだった。
(あれ?自分これ、死にますのん?)
菫が死を確信した時、飛雅が口を開いた。
「……カワイイ。」
「…………は??」
その声は近くにいた菫にしか聞こえなかったようだ。
「菫様に近づくんじゃねえ!!!」
飛雅に駆け寄る下っ端A。
飛雅の視覚から殴りかかってくるのが見えた菫は、さすがに危ないと思った。
「やめろ!!みっともない!!」
その声で下っ端Aの動きが止まる。
飛雅は慌てて振り返ると、下っ端Aが殴りかかってきていたのが見えた。
(嘘だろ?俺が……気づかなかった?)
飛雅は菫に見惚れていたせいで、下っ端Aの叫びも足音も気配も何も感じていなかった。
王者がこのとき初めて隙を見せた瞬間だった。
飛雅自身がいちばんそれを理解していた。
菫の声でやっと我に返ったのだ。
「不意打ちなど、美しくないと言っている!!貴様ら、私を慕っていると言いながら、その行動は如何なものか!?」
「……菫様!!」
(やっば、思いっきり推しの名台詞をコピペしてしまった。知ってる人いたら更に死ぬんだが、どうか知らないでくれ!!)
「…なんと素晴らしい!!!さすが菫様だ!」
「敵ながらあっぱれと言うべきか。」
(よっしゃぁ!!知らなそうだ!!てかなんか、こいつら、言ってること武士かよ、キャラブレ激しいな。)
「、、、沖墨、、まさか俺を助けたのか。」
「……そうだ。」
(そんなわけないだろー!!こんな自分がホンモノを助ける力があるとお思いで???なんかノリでカッコつけたくなっただけなんですぅ〜、イキリたかっただけなんですぅ〜。)
「俺を……。」
(菫くんが俺を助けてくれた!!??やっぱり菫くん、、、好き!!!菫くんすごいな。)
「助けられたのは初めてだ。」
「……そうか。」
「……。」
また菫を見つめる飛雅。
「……なんだ。」
沈黙に耐えられなかった菫は恐る恐る問いかける。
菫は怖くて、飛雅の目を見たまま固まっていた。
「…………。」
(言うしかない!!今しか!!今言うしかない!!)
そう思った飛雅は、下っ端共に無意識の圧をかけた。
「お前らはもう帰れ、こっからは俺らの問題だ。」
「「「「…………!!??は!はいぃ!」」」」
バタバタと教室を出ていく下っ端ABCD。
教室内に菫と飛雅の二人きりになった。
沈黙が続く、全部のドア、窓が閉められた教室で、外の音が聞こえない。
「…………。」
「…………。」
(帰りてぇぇぇぇぇ!!!何だこの沈黙!!帰っていい?ねぇ帰っていい??早く嫁(アリスたん)に合わせてくれ!!!)
(い、言え!!俺!!!言うんだ!!さっき覚悟を決めただろ!!!言うぞ!言うぞ!!あーーーでもやっぱ!!!)
「…………。」
「…………。」
気まずい。
気まずすぎるふたり。
何気に初めて話をする2人。
相手の好みも、趣味も、わからない。
なんならこのとき初めてお互いの声を聞いた。
「…………カワイイ。」
「……え?かわ、え?かわいい?」
(やば!つい本音が出てしまった。)
「さっきも言ってたな。なんのつもりだ、、佐倉 飛雅。バカにしているのか。」
「……今日、君と初めて話した。」
「……ああ、そうだな。…え?君?」
「……お、俺、俺は、、」
(言ってやる言ってやる言ってやる!!!)
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