しょちゅうご

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 私と彼は前と変わらずやる事は特に無い。でも話し相手ができて退屈は感じにくくなったかな。自分が思っていた以上に私は会話が得意じゃない様で、話題を出してくれるのはいつも彼。 「ねぇ、キミこの動きできる?」  小さい子を揶揄うかの様に、彼は芋虫の様に動いている。実際は彼の声しか聴こえていないから、揶揄っている様に聞こえるだけだし、この暗い部屋の中でこの動きできる?なんて言われても見えるわけないじゃん。 「見えないよ」  とりあえず返事はするけど、私はやろうとしない。芋虫の様に動いて見えるのもなんとなく、そんな感じの動きをしてるんだろうなぁってのが伝わるだけだし。 「じゃあこれは?」 「......」 「わかった、じゃあこれは?」 「だから見えないって!」  あまりにしつこいから、ちょっと強めに言ってしまった。一瞬後悔したが、彼は怯む様子を見せない。 「姿が見えたらやってくれるの?」 「......」 「僕がやってる動きをそもそもやろうとしてくれてる?」 「......」  私と彼は最近少しだけ動ける様になってきた。でも本当に少しだけ。だから大した動きは出来ないし、お互い近づけるほど動ける訳でもない。なのに彼は嬉しそうに動き回る。その他にも頭が以前より冴えてきた気がするせいで、色々な感情が出てくる様になった。 「キミは僕の動きを見ようともしてないんじゃない?せっかく動けるようになってきたのにもったいないよ」  部屋の中に広がっていた明るいトークは、私が発した一言で既に暗くなり始めていた。 「僕たちはこの部屋の中でこれから成長していけるはずだよ」 「成長してどうするの?」 「どうするって……」  何のつもりで、私に対して上から目線をしてくるのか分からないけど、一気に減速した彼に追い討ちをかけるように続ける。 「成長? なんの役に立つの? ちょっと動けるようになったくらいで騒がないでよ。この部屋からいつ出れるかどうかも分からないくせに」 「!」  私の発言に対して彼は暗い部屋で再び明かりを見つけたかの様に言葉を返す 「それだ、部屋から出るために必要なんだ!」  部屋を出るための突破口を見つけた彼の興奮は止まらない。 「何で部屋から出るために成長が必要なのか僕にも分からないけど、そう感じるんだよ。ほら、今キミも何か感じない? 僕たちはこの部屋から確実に出れるって気がするでしょ⁈」  彼から投げられるボールはあまりにも一方的すぎて私はピッチングマシーンから投げられるボールをひたすら受け取る作業をしているのか、としょうもない事を考えてしまうくらい私の怒りは既に冷めていた。  でも、彼の言う通り確かに今この瞬間感じた感覚は今まで感じた事が無かった。まるで誰かに『安全に部屋から出れるよ。安心してね』と言われているかのようだった。 「……確かに感じる」 「でしょ、そうでしょ⁈ やっぱり僕たちは心配なんてしなくていいんだよ〜」  『私たちは部屋から出れる』という何の根拠もない感覚に少しの安堵を覚えたのもつかの間、部屋を微かに揺らす低音が部屋の外側から聞こえた。 「なんだ?」 「ここまで大きい音は聞いた事は無いな」 「キミこの音聞いたことあるの?」 「ちょっと前からね」  確かに少し前から同じ音は聞こえていたが、今日ほど大きな音で聞こえた事はない。 「あ、まただ」  今度は、さっきほどの音の大きさではないが、部屋を全体的に響かせるような高音が聞こえた。この音も少し前から何度か聞こえていた。 「この音はさっきの音より頻繁に聞く気がするなぁ」  やっぱり彼にも聞こえている。前に少し話したけど、私と彼はコトバを使わず意思疎通のようなもので会話をしている。だから、この音を始めて感じた時は少し驚いた。今までの会話とは違う、顔の横から聞こえてくる感じが少し怖くて彼にはあえて話さなかった。話すと一人で勝手にパニックになると思ったから。 「びっくりしたけど、嫌な感じではないね。うん」  もう、彼は私なんか居なくても1人で会話できるんじゃないのか?
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