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おかしい。以前より明らかに部屋が狭い。だって、私の目の前には窮屈そうに体を丸めた彼がいるし、私達の体は部屋の壁に触れていて、これまでにない圧迫感がある。
「……せまい」
以前の彼の発言は確かに的を得ていたが、私は信じたくはなかった。そもそも部屋が小さくなろうとしているって何のためよ?
しかし、彼が成長しているから部屋が狭く感じるっていう私の考えもあながち間違ってなかった。体の成長と部屋の収縮が相まって、より狭く感じていたのだ。間違っていた点としては、彼の体が成長していたからではなく、彼も体が成長していたからという事。そう、私も同じように成長していた。
「もう少しだね......」
依然窮屈そうに話す彼の言葉の意味を、私は理解できなかった。
でも、その言葉の意味を理解せざるを得ない状況が直ぐに来てしまった。
彼は部屋の下に居る。私達がいた部屋は思ったより立体的で、私と彼は最初、部屋の天井側に居たみたい。つまり、彼は床の方に居て私は天井側に居る。重力が働かない空間って訳じゃないけど、2人とも少し浮いている感じなのかも。
「ねぇ、そっちにいって何してるの」
「僕も分からないんだよ。体が勝手に下の方に押し出されるんだ」
部屋の収縮は日に日に強くなっているし、このままだと2人ともこの薄暗い部屋に飲み込まれるのではないかという恐怖心が強くなっていた。
「私そろそろこの部屋から出たいよ」
「そうだね。もうそろそろじゃない?」
こんなに窮屈で押し潰されそうな状況にも関わらず、彼はやっぱりどこか嬉しそうな表情をしている。
「ねぇ、一緒に出ようよ」
「うーん、一緒に出れるのかなぁ」
ここに長く居てはいけない。本能的にそう感じた。出よう。ここから出ないと。そう決心したと同時に部屋の外から強烈な圧が掛かり始めた。
「うわ!!」
「...わっ!」
一瞬、部屋全体が光に包まれ瞼を閉じる。
「大丈夫?」
今度は、私から先に声をかけた。さっきの光はもう無い。
「うん!でも、やっぱり僕からみたい」
「?」
部屋の外からの圧力は、けんけんぱのリズムのように一定間隔で加えられる。その度に私たちが居る部屋を照らす光が部屋に差し込み、彼の位置は私からどんどん離れていく。
「ねぇ、どういう事!」
再び圧が掛かる。
「...っくる...しい」
声を詰まらせてしまい、会話のキャッチボールがまともにできない。
「...はぁ...はぁ...だいじょう...ぶ?」
やはり、彼はどんな状況でも私の心配をしてくれる。ただの話し相手から始まった私達の関係は今は違う物なのかも。
「......いや、最初から違ったのかな...」
少し前から、彼が私にとって特別な存在である事にはなんとなく気づいていた。
「...?...え?...っつ...なに?...だいじょうぶなの?」
最初より大分下の方に行ってしまった彼が心配そうに私の様子を伺う。私の目は相変わらず視覚的に彼を捉える事はできていないけど、不思議と彼のことがしっかりと見える。その姿を見ると部屋に潰される恐怖が少し和らいだ。
「...よかった...じゃあ先に出るね...」
私の安心した表情を見た彼は、少し寂しそうにそう言って先程の光と共に部屋から居なくなった。
「......」
彼は部屋から居なくなったけど、寂しさは感じない。常に喋っていた彼が居なくなった事で話し声は聞こえなくなったから客観的に見れば寂しいという表現は適切なのかもしれない。
「......」
何も考えられない。でも、もうこの薄暗い部屋で考えなきゃいけない事は無くなった気がする。
「私も出ないと」
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