熱帯夜

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 ポツリと何かが額を濡らし、目を覚ました。  手で拭って確認してみるも、部屋の中は暗闇で、目の前の手のひらは輪郭がぼんやりと見えるばかり。  鼻を近付けてみるが匂いは感じず、枕元のスマホを手に取って、眩しさに堪えらながら照らしてみたが、そこには濡れた跡が残っているだけだった。  スマホの時刻を確認するとディスプレイには2時47分と表示されている。午前2時47分。導入剤まで飲んで漸く眠りにつけたのに、3時間ばかりで目を覚ましてしまったという事になる。  もう一週間近く、こんな夜が続いていた。毎日蒸していて寝苦しいせいもあるだろうが、理由はそれだけではない。  ニュースアプリを開いて速報を確認するが、容疑者についての情報はあがっていなかった。あの日、通り魔事件の捜査でやってきた警察は、まだこの辺りを彷徨いているのだろうか。  幼い頃からの小心者の気質は、四十歳を前にしても変わらぬままだ。心配事があると直ぐに胃痛や不眠を引き起こしてしまう。  うんざりとしながらもう一度眠りに入ろうと目を瞑ったが、頭から事件の事が離れず、エアコンの稼働音やどこかで飛ぶ虫の羽音、些細な音がいちいち気になり始め、じっとしている事にすら苛立ちを覚え始める。
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