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     家の中のあちらこちらにピンクの指紋が付いている。  鏡台の鏡の下半分、コップの持ち手、テーブルの隅、カーテンの端っこ……。  一番初めは確か、春……四月中旬頃だったと思う。  暖かい日が続いて春物の薄手のカーディガンを出そうとして、その肩にべったりと手のひら型の跡が付いているのに気づいた。  最初は「なんだろう。オイルか何かを触った手で片付けて、それが変色して染みになったのかなあ……」なんて深く考えもせずにいたのだけれど。    付いているのはいつも薄いピンクの指の跡。  簡単に取れそうに見えて、ティッシュだけではなかなか取れない。  洗っても、完全に綺麗には落ちない。  そしてある日、ふと不審に思った。 「あれ………?そう言えばあたし、これに最近触ったっけ?それに……どうしてどれもピンク色なの………?」  磨いていたのはネイルチップを保存していたハートのブリキ缶。  最近は忙しくてネイルをする余裕なんてなかった。  一人暮らしで、他に家族なんていないのに。  疑問が頭に湧き起こった瞬間、背後に何者かの赤黒い気配を覚えた。    
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