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 眼前に見る要二朗の顔はどことなく虚ろになっている。 「え……?あの、要二朗、さん……?」 「高校二年の時、夕刻……帰って見ると、母は知り合いの業者の男と寝ていた。僕が宿泊研修なことを知って、その隙に男を引き入れてたんだ。なんてことはない若いだけの男だ。母にふさわしい知性のある男なんかじゃない。僕は……僕は、二人が許せなかった」 「……………」  要二朗の顔は、それまでの余裕ある顔つきとは打って変わって、悲壮感のある孤独なオーラで滲んでいた。  これは彼にとって大事な記憶なのだ。  本能的に麻衣美は、彼の性格、彼という魔物を作りだした諸悪の根源が、そこにあるような感覚を覚えた。  彼の母親と知人男性との秘密の夜の営みが、彼の中の(たが)を外した。  それほどまでに彼にとっての母親は、理想のシンボルであり、清廉でなくてはならないものだったのだ。 『君は……その、僕の母に似てるんだ』  先程のセリフの中にも、母という言葉があった。  それは、彼にとっての重要性が一際高いことを示している。 「だから……君は僕を裏切らないでくれ。僕の愛に背かないでくれ。僕は君がいないとダメだ……君がいてくれるなら何だってする。だから、だから……」
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