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「それは……僕の兄が、一歳の時に突然死で亡くなって、だから」 「だったら、うん。間違いないですよ!絶対、絶対愛されてたんですよ。要二朗さんを裏切ったりなんかしてないですよ、お母さん。ただ自分の欲求にすごく正直な、素敵な人だったんだと思います」 「……………」  要二朗の顔が、みるみるうちにこれまで見たことが無いほどに弛緩した。  大粒の涙が頬を滝のように流れ、鼻水と涎がポトポトと湯船に落下して行く。  それまでの状況とは全く違う状態になり、麻衣美は驚いたものの、その涙こそが真実の要二朗を表しているように思うと、どこかホッとした。  子供をあやす母親のように、その頭を優しく撫でる。 「お母さんを許せたら、謝りに行ったらいいと思いますよ。きっと赦してくれますよ」 「でも……もう遅いんだ」 「遅いなんてこと。生きていればやり直しは利くんですから」 「………だから。だからだよ」  泣いていたと思った要二朗の瞳が急に野性味を帯びてギラついた。  そして急に湯船から麻衣美を抱き上げて立ち上がる。 「え……っ」  タオルで拭き上げることもなく、そのまま要二朗は真っ直ぐに寝室の方に突き進んでいく。
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