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ぐるぐると舞う意識、色が消えて、白黒が混濁した視界。
もう何も抑える必要もない。
とにかく、愛する人を、助ける。
麻衣美の身体は弛緩し、その場にドッと倒れた。
それは傍から見れば、失神して見えただろう。
けれど、実際は違った。
有希の右乳房の周りを一周したナイフは、その刃先を中央に向け、完全な肉の分離を試みていた。
有希は血走った目を天井に向け、荒い息を吐くも、もう抵抗する力を出せずにいる。
「ようし……もう少しだ」
要二朗がほくそ笑んだ、次の瞬間。
要二朗の首元に、冷たい何かが触れた。
それは女性の小さな手のように思えた。
「………え?麻衣美?じゃ、ないか……」
見上げれば麻衣美はベッドの上で気絶して倒れている。
他に人の気配はない。
あるはずもない。
だとしたら。
背中にある赤黒い気配は、誰の気配なのか。
『おぉおおおおおおお…………』
振り絞るような声に現されているのは、圧倒的な、恨みの感情。
低いけれども、喉仏のある男の低さとは違う。
これは、女性の声。
地を這うような、くぐもった不快な声。
「な、だ、誰だ………」
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