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「だからね、あの日、ミカコに襲われてみっともなくも失神しちゃって、それであんまり遅いからって店長や里奈が捜しに来てくれたの。で、路地裏で倒れてるアタシを発見してくれてさ。意識は朦朧としてたけど、声掛けに何とか気づいて。それでとりあえず店の中にって話になって。アタシはとにかくあんたの身の安全が気になったんだけど、すぐには動けない状況でさ。里奈に代わりにビジネスホテルに向かってもらったんだけど、部屋には誰もいないみたいって連絡があって……。絶望したわよ。アンタがどこに連れ去られたのか、皆目見当もつかないんだもの」  郊外にある総合医療センターの三階。東棟の個室。  あれから十時間にも及ぶ緊急手術を受けた有希は、出血多量で危ない時があったものの、傷口を縫合し、輸血に助けられて何とか回復することが出来た。  集中治療室から出てからは個室に移っているが、丸二日間は面会謝絶で、麻衣美は生きた心地がしなかった。  ようやく訪問が許されたのは事件後四日が経った六月三十日だった。  例年よりも遅く始まった梅雨に、歩道沿いのアジサイが歓喜して花を揺らしている。  
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