ピンクの指紋

1-2

「グッモーニ～ン、麻衣美(まいみ)！なあに朝からグッタリしてんのよぅ」

　観葉植物パキラの鉢の横、三人掛けソファが設けられた休憩室。
　背後からの明るい大声に、麻衣美は閉じていた目を開いた。

　言われた言葉通り、ぐったりとソファに身体を預けてヘタっていた麻衣美は、声の主からポンと頭を小突かれた後、だるそうに顔を上げる。

「あぁ――――……おはようございます、有希(ゆき)先輩ぃ……今日も元気炸裂100％ですねえ……」
「わっ！なぁに？その顔ぉぉっ！！クマクマクマっ！！アンタ何回も欠伸したでしょう？目の下きったないわぁ、メイク直しした方がいいわよ。ほらほら！」
「えぇえ……そこまで酷いですか？」
「いいからいいから！ゴーゴー！」

　強引に腕を引き上げられ、麻衣美は女子トイレに併設された化粧室に向かった。

　ここは県内でも有数の人気百貨店、釜屋デパート三階の従業員共用休憩室だ。
　八階建ての百貨店にはおよそ三十の店舗が入っているが、麻衣美はその中にあるチーズケーキショップ「Hi★CHEESE！」で働いている。