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じめじめとした梅雨空から一転、七月初めはじりじりと焼けつくような晴天が続いた。
大きめのアタッシュケースをカラカラと引きずりながら、バス停からの舗装されていないでこぼこ道を歩く。
ひっきりなしに鼓膜を叩くセミの鳴き声が酷く耳障りで苛立ちが増す。
十分ほど歩いた先、こんもりとした木立の奥に隠れるようにして麻衣美の実家はあった。
築年数100年越えの木造平屋は壁も湿気を帯びて黒ずみ、昼間だというのに家全体のオーラが何だか薄暗い。
「あぁもう、なんでこんなことに………帰ってくるつもりなんかなかったのに」
麻衣美は肩を落とし、大きく溜め息を吐いた。
******
あの事件があってから。
麻衣美は事件に関わった当時者でもあり、警察での事情聴取にも何度も呼び出された。
その聴取で、知っていることは話したが、要二朗の仕事のことなどは元から何も分からない。ただ監禁されたことや勝手に職場に辞職願を出されたこと、ストーカー行為があったことを素直に説明した。
警察は麻衣美に関しては被害者という見方で接してくれていて、取り調べで何かを糾弾される、というようなことは全くなかった。
だから、多少面倒でも協力できることはしてきたのだけれど………。
困ったのは、麻衣美が救出され、病院に運ばれた際、両親に連絡されたことだった。
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