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 麻衣美は大学在学途中に実家通いから寮生活に変え、それから殆ど帰省していない。  なぜ途中から寮生活に変えたかと言うと、それは実家に住むことが耐えられなくなったからだった。  だから指紋で大騒ぎし、泊まる所を画策していた時も、実家だけは決して候補に上がらなかった。週末だけでさえ、戻るのも嫌だと思っていた。  けれど事件後、スマホに何度も母から着信があり、ラインの通知が入っていた。  簡単に『大丈夫だよ』とだけ返信したが、それで納得いかなかったらしい。  麻衣美は一人っ子だったし、元より過保護で心配性な母は、発狂しそうなほど麻衣美の身を案じていたようだ。  突然、両親が店を訪ねて来た時は心臓が止まるかと思った。  その日はちょうど店に復帰した初日で、完全にそっちの警戒を怠っていた。  警戒心のないまま、客をスマイルで出迎えて、そしてその中の一人が母たちだったのだ。  父―――いや、義父を見た瞬間、麻衣美は激しい嫌悪感で卒倒するかと思った。 「もうっ!麻衣美ちゃん、何度電話しても取らないんだもん!いろいろ調べてやってきちゃったのよ!背中ケガしてるんでしょう?もう働いて大丈夫なの?」  母は麻衣美の姿を認めると同時にその胸に飛び込んできた。  百五十三センチの麻衣美よりもちょっと小さめな百四十八センチの母は、チャキチャキ動く電動小リスのようだ。
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