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「うーん……仕事もあるしねぇ、それはちょっと………」  釜屋百貨店の三階の共同休憩室。  机を挟んでソファに腰掛け、対面する形で話をする、が、盛りあがる空気にはもちろんならない。  母はいつもこんな感じだ。小さい頃から可愛いママとして評判だった。  高校の時に父が突然の事故で他界してからは、二人で協力して家事をこなしていた。  すぐにめそめそしてしまう母を、どうにか元気づけようと楽しい話を心がけた。  私は感情の起伏の激しいママを大変と思いつつも可愛いと思っていたし、ずっとこのまま友達みたいな仲良し親子でいられるのだと思っていた。  でも、それが大学に入ってから。  大学に入学して数ヶ月が経った頃から、ママの態度がおかしくなった。  就寝時はいつもスウェット上下だったのに、なぜかふりふりのネグリジェになり、外に出る時はリップじゃなくてちゃんと口紅を引くようになった。  料理も何だか手の込んだものになって、明らかに女子力を上げようとしているのが見て取れた。何かを迎える準備をしているかのように、部屋の中の雰囲気もガーリーに変わった。
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