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けれど麻衣美は数ヶ月一緒に暮らしてみても、桟ヶ嶋の醸し出す雰囲気がどうしても好きになれなかった。
それは大好きだった父の座に彼が座ったことが許せないと言う娘心からかもしれないし、単純に好みのタイプでないからかもしれなかった。
麻衣美の気持ちなど知らない母は、尻尾をブンブン回す犬のように彼にくっ付きニコニコとしていて、それを傍目に見ると、新恋人を祝ってあげないとと思うのに、なぜか心が重くなった。
言わば事実婚に近い状態だった。
麻衣美は自分の居場所が居心地悪い場所に変わって行くことに抵抗を感じていた。
一日に何言か、三人で食べる食事の際に言葉を交わす。
麻衣美ももう小さな子供ではない。
とりあえず笑顔を取り繕い、自然な会話をしようとするが、それでも食事はおいしく喉を通らなかった。
食べている間中、視線を感じる。
どこを見てる?
顔?唇?うなじ?胸?
思い過ごし?
自意識過剰だろうか?
見られていると思うと鳥肌が立ち、全身の筋肉が委縮した。
食べ物を嚥下する筋肉も硬化し、胃の機能も落ちていた。
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