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手を伸ばす桟ヶ嶋の方を振り向く余裕などなかった。
ただどこまでも駆けられるだけ駆けた。
でこぼこ道でもあぜ道でも、隣家の畑でも泥の中でもどうでも良かった。
空が白むまで麻衣美はとにかく外で駆けまわって過ごした。
どこをどう走ったのかよく分からない。
足の裏は傷だらけで、膝下には萱で切った傷があちこちに付いていた。
朝になって、母が間違いなく帰って来た時間を見計らって帰宅した。
それから開口一番に大学の寮に移ることを宣言した。
母は突然の宣言に狼狽し、何度も考え直してと懇願したが、麻衣美は理由を話さず、また、その考えを緩めることはしなかった。
母の隣に立つ桟ヶ嶋は何も言わずただ蛇のようにじいっと見つめるばかりで、麻衣美は一切目を合わせなかった。
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