6-5

1/3

62人が本棚に入れています
本棚に追加
/335ページ

6-5

 あの一件以来、麻衣美は大学の寮に転入手続きをし、それから卒業後はアパートに引っ越して、もう実家に帰るつもりは全くなかった。  母のことはもちろん心配だし、親孝行をいつかしたいとも思うが、あの男が母の傍にいる間は無理だと思った。  その間に二人は結婚し、母は桟ヶ嶋の姓になったが、麻衣美はそれまでと同じ田所の姓を選択している。  戸籍上は義父になるかもしれないが、麻衣美にとっては全く父とは程遠い存在で間違いなかった。  職場『Hi★CHEESE!』に母たちがやって来た時は驚いたが、自分では絶対に帰省を拒否するつもりだった。  けれど、そこでまた休憩室に様子を見にやって来たお節介な豆田店長が要らぬ口を挟んだ。 「どうです、ゆっくりお話は出来ていますか?」 「ああ、店長さん。それがちょっと……麻衣美を少しだけ、うちに帰省させたいんですけど、一日でいいんです。少しだけシフトを空けていただくことって出来ませんか?」 「えっ?あぁ、それはもちろん!田所君は病み上がりなワケだし、暫くは短時間シフトにしています。ご要望であれば、数日お休みにして、実家で寛ぐのも結構なことだと思いますよ!」 「あらまあ!そうですか!出来ますか!」
/335ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加