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でも、もう少し、もう少し、時が経ってから。
麻衣美の顔を見つめていた母が、ニコニコ顔の目から急に大粒の涙を零し始めた。
「えっ?どうしたの急に、お母さん?」
「……だって、嬉しくて。お母さん、麻衣美とずっと、こうやって話したくて。ずっとね、淋しかったの。麻衣美と会えなくて……でも、麻衣美ももう大人になったのねぇ。もう、そのうち自分で家庭を作るようになるんだねぇ………」
「もう……心配し過ぎだよ。……少しは、連絡増やすようにするね。お母さんも元気で良かった。これからも身体大事にしないとダメだよ」
「うん……そうね、そうね……」
涙声で震える母の肩を抱きしめ、麻衣美はこれまでの親不孝を懺悔した。
けれども頻繁に実家に出入りするような約束をすることは躊躇われた。
母は可愛い。五十を過ぎても、小動物のような愛嬌がある。
邪険にしたい訳ではない。幸せになってもらいたい。
幸せな老後を過ごしてもらいたい。
でも譲れない心もあるの。ごめんね、お母さん。
それから母子二人は日の暮れるまで、これまでの空白時間を埋めるように談笑し合った。
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