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有希先輩がいるだけで、触れられる距離にいるだけで、
私はいつでもフルチャージ状態に瞬時に戻れる気がするんだ……。
湯船にゆったりと浸かり、窓から差し込むオレンジ色の光に目を細める。
もう夕方六時を過ぎているけれど、夏至から間もない時期の空はまだまだ明るい。
「あぁでも、これって……西日なんだよね」
西日が多く降り注ぐ家は、風水的には良くないと言われている。
それをふと、口にした時、全身が金縛りにあったように強張り、鳥肌が立った。
視線を、感じる。
「……まさか」
浴室のガラス戸が、閉めたはずなのに、数ミリ開いている。
そこに見えるのは人影、そして隙間に男の、
眼球。
「……………っ!!」
驚くと同時に湯船にドボンと全身を浸ける。
温かいお湯に入っているはずなのに、寒気が止まらない。
全身の毛が逆立つ。
「………いやあ、長かったよ………」
キイ、と戸を軋ませて、何のへつらいもなく男が入ってくる。
それはあの晩、寝こみを襲おうとしてきた男だ。
母の再婚相手、桟ヶ嶋だ。
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