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一番壁際まで寄って、出来るだけ距離を取ろうと努めた。
射るような、刺すような視線を感じる。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
とぽん、と湯船に片足を突っ込む音が響く。
湯を膝で蹴りながら男が、近づく。
「はあはあはあ………麻衣美、麻衣美、どんなに僕がこの時を」
荒々しい鼻息、滴る涎、常軌を逸した充血した瞳。
興奮して震えている手が、伸びる。
「………っ!いやあああああああ!!」
肩に指が触れようとした、その瞬間。
あの時、要二朗の母らしき女性から聴いた言葉が脳裏に蘇った。
『………おわびと言ってはなんだけど、少しだけまじないをさせてもらったわ。あなたが今後、また想う人以外に暴行されないように……あなたの一番邪念が強かった瞬間を利用したまじないよ……』
と、同時に。
「うぎゃああああああ!!」
突然、目の前に立つ男の顔が、恐怖で歪んだ。
厭らしく高揚し火照っていた顔は一気に青褪め、蒼白となった。
「はあ……あ、ああああああああ!!」
男は麻衣美の背後に突如出現した何かを見ていた。
そしてその何かに怯え、目を剥いて驚愕していた。
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