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これ、は。
これは、自分。
自分の、怨霊だ。
「ちょっとぉぉぉ―――――!どうしたのぉ?何か叫び声が聴こえたんだけどぉ」
「……はっ、あ、お、お母さん……!」
どこか間延びした、のんびりした声が渡り廊下の方から聴こえ、麻衣美は自分の置かれている立場に意識を戻した。
叫び声や物音を聴きつけて、風呂場のある離れへと母がやって来ている。
今、母が来てしまえば、ここに倒れている父と同じ結果に陥る可能性が高い。
自分で、自分の怨霊のように分かっていても全身の肌が逆立つほど身体が竦むのだ。
怖がりで小心者の母が見たりしたら。
それだけは、
それだけは避けなければ。
麻衣美は気力を最大限に上げて身体を動かすと、湯船から身を乗り出して叫んだ。
「お母さん!大丈夫!何でもない!来ないで!」
「えぇ~?なぁに?やっだもう、不用心ねえ。扉開いてるじゃない……と、あら、足?」
こちらの叫びの意図が分からない母は、マイペースに隙間が開いていた扉に手をかける。
そして脱衣所で倒れている義父を発見してしまった。
「お母さん!いいから来ないでって!」
「えっ?何?まさか……も、盛章さん?」
まだ、消えていない。
母が覗いてしまったら。
見て、しまったら。
「え……盛章さん!?なんで、どうして」
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