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「お母さん、いいから離れて!」
「いや、だって盛章さんが、盛章さん!ちょっと、どうしたの?いったい何、が……」
母が浴室に向け顔を上げた瞬間に、麻衣美は湯船から飛び降りて母の顔を抱きしめた。
突然の全裸での娘の抱擁に母は心の底から驚き、その場に尻餅をつく。
「え……っ!?どうしたの?どうしたの?何が……」
「いいから黙って!」
麻衣美は目をぎゅっと閉じたまま小柄な母を抱きしめ続けた。
ワケが分からないながらも真剣そのものの娘の姿勢に、母は動揺を鎮めていく。
そして娘の乳房の下、横たわる夫の顔が恐怖で歪んだまま、既に絶命していることを理解した。
その手には、自分で作ったのであろう、この離れの浴室の合鍵。
「……………っ!」
恐る恐る顔を上げて、麻衣美が振り向くと、もうそこに自分の怨霊の姿は無かった。
恐らく攻撃対象となる『麻衣美を凌辱しようとする敵』がいなくなったため、役目を終え、消えたのだろう。
要二朗の母はプレゼントのような感じで話していたが、これはこれでかなり強力すぎる痴漢撃退法だ。これは、今後もずっと、一生適用されるのだろうか?
「………盛章さん……」
母の言葉にハッとなり、麻衣美は義父の容態を確認した。
既に息は無く、心臓も動いていない。
「ご、ごめんなさい。お母さん、私………」
自分の怨霊のせいだ。
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