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防御のためとはいえ、命を、母の大切な人の命を奪ってしまった。
もっと取り乱して、抱き付いたり叫んだりするのかと思った。
けれど膝を落とし、義父を覗き込む母の目は、虚ろに見えて、全てを了承した光を宿していた。
「ここに忍び込んで、それで滑って転倒して、頭を打っちゃったのね……?自業自得だわ……。いいの。麻衣美のせいじゃない。分かった……分かってたの。そうじゃないかなって。じゃなきゃこんな、50代のババアに告白なんてしないものね。麻衣美をずっと、この人狙っていたのよね。そうなんじゃないかって、思ってたの。麻衣美が出て行ってから急に冷たくなって………でも、また一人になるのが怖くて、だから」
「……お母さん」
「いいの。もう。もう……」
「お母さんは可愛いよ!歳なんて関係なく可愛いもん!絶対またいい出会いあるよ!でも今度は自分から好きになって!自分が一緒にいたいって、思える人をちゃんと選んで!私はそれなら応援するから!ちゃんとずっと、応援するから!」
「……麻衣美」
ふにゃっと弛んだ頬の上に、大粒の涙を零して母は号泣し、抱きしめる麻衣美も一緒に大声で泣いた。
人の心は脆い。
人の心は幼い。
人の心は弱い。
人の心は儚い。
けれど。
生きるという選択を続けるのなら。
何度転んだって、立ち上がるしかない。
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