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浴槽から清々しいライムの香りが風に乗って漂ってくる。
まるで体内に蔓延った毒を浄化しようとしてくれているみたいに。
母が落ち着き、義父の死亡について警察に電話し始めた時、麻衣美はタオルを胸に、浴室の床に転がっていたガラス瓶を拾った。
ライムのオイルが入った瓶をぎゅっと握り締め、麻衣美は有希の笑顔を想った。
自分は犯罪者で、会う資格はないように思えても、でも、愛することはやめられない。
怨霊だったとはいえ、私は義父を殺した。
その秘密を、墓場まで背負って行かなければならない。
「供養はする。弔いもする……でも、私はあなたを背負って生きて行きたくはない」
何かを訴えているような、苦悶の表情のまま絶命している義父の遺体から目を背け、麻衣美は窓から暗くなり始めた天を見つめた。
また、止まりかけていた涙がはらはらと零れ落ちる。
『愛するより愛される方が幸せになれるわ』
以前耳にした母の言葉が蘇る。
これまで幾度となくその言葉のことを考えてきた。そうだとも思ったこともあった、でも、やっぱりそうじゃないと思った。
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