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「そうそう、アタシは化粧の国からやってきた特級メイク師よ………アンタみたいな童顔はね、ケバくしたらオカメのお化けになんのよ。厚塗りはほどほどに、こんくらいで上等。ん―――と、今は応急処置で上半分しか重点的にしてないから……口元はそうね、どうせマスクするでしょ。それで隠しときなさい……って、あらもうこんな時間じゃないの!いかなきゃ。アンタ、先にショップに戻ってて。アタシ店長に備品調達頼まれてたんだったわ。一階のスーパーでちょっと買い物してくるから。さあ、ハイハイ」  涼しげな色合いの化粧ポーチを軽やかにA4サイズのショルダーバッグに滑り込ませると、有希は麻衣美の背中を押した。   「あ……っ、ありがとうございます!有希先輩っ」 「どういたしまして。それよりその目の下の、クマさん誕生になった理由が気になるから、今日は一緒に帰りましょ。都合悪い?」 「えっ?いえいえ、何もないです、けど」 「そ。じゃ、あとでラインするわね」  軽く右目をウィンクし、片手を上げて有希は廊下の曲がり角に消えた。  その姿を麻衣美はほんのりと紅く染まった頬で見送り、それから自分も慌てて勤務場所に戻った。
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