夏の夢

1/3
前へ
/3ページ
次へ
それはそれは熱い夜だ。 歩けば屋台が立ち並び、人々は浴衣や甚平を着ている。 りんご飴を食べる者や焼きそばとたこ焼きを豪快に頬張る者。 射的を楽しむ親子。 夏の夜。 漆黒の夜空は花火で華やかに輝く。 誰もが輝いているのだこの夏の夜の下では。 その中でも異彩を放つのはずっと片思いのあの人だ。 楽しげに歩いている姿は花火よりも輝いていた。 自分に気がつくと笑顔で手を振って近づいてくる。 一緒に歩こうと誘ってくれた。 気分の高揚で体温が熱くなるのはこの祭りでも夏の夜のせいでもない。 目の前にいる普段は制服姿のあの人がこんな素晴らしい格好をしているからだ。 熱き夏の夜に誘われた言葉は風鈴の様に風流で花火の様に激しくもトキメク言葉だ。 しかし長い人生でたったの3回しかないこの青春の夏。 そして今年が最後の夏になる。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加