1. 部活見学へゴー!

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 校舎の二階、一番はしっこ。そこが邦楽部の活動場所。  途中通った吹奏楽部の部室前は、一年生で大にぎわい。  対して、こちら邦楽部の部室前。人の気配さえ感じない静けさ。  ううう。なんかすっごく入りにくい雰囲気。  ドアの前でちゅうちょすること三分。  さっきから、ドアノブに手を出したり引っ込めたりを繰り返してる。  だれか見てたら、完全に変な子だよ。  ええーい! 迷っていても仕方ない!  覚悟を決めて私はトントン、と小さくノックをした。  ガタガタッ、ドーン!   何かが倒れたようなすごい音!    ……だ、大丈夫かな。  しばらく待っていると、ドアがゆっくり開いてメガネ女子が顔を出した。  部活紹介してた部長さんだ!   部長さんは、ずれたメガネを直しながら、あわててほほえんだ。 「ごめんなさい。だれか来るなんて思わなかったから、びっくりしてイスから落ちちゃった。あの、もしかして見学の方ですか?」  「はい。一年の花瀬(はなせ)みおりです」 「わぁ! どうぞ!」  目をきらっと輝かせた部長さんが、ドアを全開にして通してくれた。  中はこぢんまりした普通の部屋。  真ん中に離れて置かれたパイプいすが二つ。その上にお筝が置いてある。 「私は邦楽部部長、三年の立川夏芽(たちかわなつめ)です。よろしくね」 「は、はい。よろしくお願いします」  あわてて礼をすると、部長さんがにこっと笑った。  よかった。優しそうな人だ。 「あの、部活紹介の時に部員一名って説明されていましたけど……部長さんだけですか?」  きくと、部長さんは困ったように眉を下げた。 「うん。私だけ。去年までは、あと二人いたんだけど……やめちゃった」 「やめた? ……ケンカでもしたんですか?」 「ううん。ちがうよ。ただ、ここに来たら頭痛くなるし、やる気出ないって言って……まぁ、受験あるしね。二人とも上位校希望してたし」  部長さんはさみしそうにうつむく。  二人ともやめちゃったって……ほんとは何かトラブルがあったのかな。  女子同士っていろいろあるしなぁ。  小学校時代のトラブルを思い出してたら、部長さんがうれしそうに両手を組んだ。 「せっかく見学に来てくれたんだから、邦楽部らしいところ見せなくちゃ。私、ちょっと弾いてみるね。あっ、このイスに座ってください」    さささっと部長さんがパイプイスを出してきてくれた。  座ったら、緊張してた気持ちが少しだけほぐれてきた。  でも、部長さんは私よりも緊張しているのか、ふるえた手で譜面台に楽譜を広げ、爪をはめる。  それから、ふぅと息を吐いたあと、五の音が響いた。  続いてひきいろで音がふんわり変わって、三へとおりていく。  六段の調(しらべ)だ。お筝の世界では超~有名な曲。  一つ一つの音を丁寧に弾く部長さんの顔は、真剣そのもの。  ところどころつまったり、止まりながら一段を弾き終えたあと、部長さんは照れたように頭をかいた。 「……こ、こんな感じかな。まだうまく弾けなくて」  パチパチパチ……と私はすかさず拍手。  部長さんは、真っ赤になった顔をパタパタと手であおぎながら、私に向き直った。 「花瀬さんはお箏弾いたことある?」 「はい。私は家にお筝があるので、小さいころから弾いてました」 「えっ、そうなの? すごい! はずかしいな。私えらそうにさっき弾いちゃって」 「そ、そんなことないです。私もまだまだで……」 「じゃあ、ちょっと弾いてみて! 覚えてる部分だけでいいから」  部長さんにすすめられて、私はお箏の前に座った。  うーん。なんの曲、弾こう?  楽譜もないし、今、おばあちゃんに教えてもらってる曲のはじめだけ弾いてみようか。  左手を添えて、はじめの音を鳴らしたら、もう勝手に手が動く。  静かにはじまる花の曲。  途中でタタタと入る三連符がお気に入り。  頭の中で楽譜をめくって、三ページ目くらいまで弾いたら、 「あれ? 次なんだっけ?」  突然のド忘れ!!  手を止めてフリーズしてると、部長さんがパチパチと拍手をした。 「うまいっ! すごいね! びっくりした!」  部長さんが目をキラキラさせて、立ちあがった。
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