1. 部活見学へゴー!

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「もっといろいろ弾いてもらいたいなぁ? あ、奥にね。楽譜がたくさんあるんだ。音楽の先生が持ってきてくれたの」  奥の棚を探りに行った部長さんは、何冊かの本と楽譜をいっぱい持って来て、ドサリと机に置く。 「いっぱいあって、何が何だかわかんないけど、こーんな古い楽譜もあってね」  部長さんが一枚の古びた楽譜を指にはさんだその時、  にゅうっ。  机に置かれた楽譜の束から黒いニョロニョロしたものが出てきた。  巨大なオタマジャクシみたいな形。  しかも顔がついていて、うっすら目や鼻、口がある。  き、気持ちわるっ!  だけど、部長さんは気づいてない。  オタマジャクシは、部長さんの頭の上をひらひらと泳いでる。  ……オバケ? なんでこんなところに? 「この楽譜なんて、ボロボロすぎて、読めないしね。……ううっ、あれ? ごめんちょっと立ちくらみ?……」  急に部長さんが頭をおさえて、うつむきながらしゃがみこんだ。 「あの……大丈夫ですか? 気分悪いとか……?」  部長さんに声をかけたけど、返事がない。  ますます心配になって、部長さんの横にしゃがんだ時、ドアがかたんと鳴った。 「すみませーん。バレー部でーす」  入ってきたのは、背の高い体操服の男子。  袖が赤だから、私と同じ一年生だ。 「イスがあまってるって聞いたんですけど、貸してもらえますか? ……って、あれ? なんだこれ?」  宙を踊るように飛んでいる黒いニョロニョロに、男子が芯の強そうな瞳を細める。  黒いオタマジャクシオバケは男子を見つけると、急に目を光らせて男子の方へと泳いでいった。 「これ、なに?」  男子がふよふよ泳ぐオタマジャクシを指さしてきいてきた。 「分かんない。急に出てきたの」  気味の悪いオタマジャクシは、男子にじーっと見られているのに気づいたのか、びしっと動きを止めた。 それから、恥ずかしがるようにクネクネしながら部屋の外へと出て行った。 「新種の風船?」 「……風船じゃないと思うけど」  男子と一緒に開けっ放しのドアの方を見てると、部長さんがゆっくり立ち上がった。 「あれ? 平気になった。ごめん、ひどい立ちくらみで。最近多いのよね。貧血かな」 「大丈夫ですか?」  部長さんをのぞきこむと、顔が真っ青だ。 「うん。でも突然、頭痛もウソみたいに吹き飛んだし。……あれ? あなただれ?」  部長さんが男子を見て、まばたきをする。 「あ、バレー部一年の相沢伊月(あいざわいつき)です。パイプイスを貸してもらいに来たんですけど」 「あぁ。そう言えば先生が言ってたわね! ごめんなさい、忘れてた! あの壁際にまとめてあるイス、どうぞ持っていってください」  部長さんが言うと、相沢くんは「ありがとうございます」と言って壁へ行き、立てかけてあるイスを両脇にかかえた。 「じゃ、お借りしまーす。失礼しました」  相沢くんは軽く頭を下げて、ドアの前まで歩いていく。  それから、何か言いたげな顔でチラリと私を見てから出て行った。 「ええと、何してたっけ。そうそう楽譜を探してて……」  部長さんが手に持ってる楽譜をパラパラとめくる。  どうやら部長さんには、あの変なオバケは見えてなかったみたい。  あんなの見たら、立ちくらみどころじゃなく、びっくりして腰抜かしちゃうかも。  私は……オバケなんて今更驚かないけど。
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