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3. バレー男子と私
週が明けて月曜日のお昼休み。
お弁当を食べたあと、私と湖奈ちゃんは中庭のベンチで雑談中。
木陰のベンチを選んだけど、座っているだけで汗がふきだしてくる。
湖奈ちゃんが汗をハンカチでぬぐいながら、パタパタと手であおいだ。
「みおりちゃん、部活どう? 先週入部したんでしょ?」
「うん。先輩がすごく優しい人で、うまくやっていけそうだよ」
「そっかぁ。良かったね。先輩がどんな人かってすっごい重要だもんね」
「うん。湖奈ちゃんはバレー部入ったんでしょ? どう?」
「なかなかきびしいよ。もうアップの体育館五周ランニングでへとへと」
「うぇぇぇ……私だったら絶対無理」
うわぁ。想像するだけで、足が痛くなってきて気分が悪くなる。
湖奈ちゃん、そんな練習してるんだ。すごいなぁ。
「そうそう、バレー男子ですっごい子いてさ。背が高くて、ジャンプ力あるし、動きは機敏だし、もう絶対エース確定だよ。五組の相沢伊月って言う子。知ってる?」
「相沢……伊月……」
あっ。きのう、邦楽部の部室に来た子だ。
「相沢くん、すでに春休みから部活に顔出してたんだって。すごいよねー……あ、ウワサをすれば」
湖奈ちゃんの視線の先をたどると、校舎の方からボールを抱えた男の子が歩いてきた。
きりっとした眉に勝気そうな瞳。サラッとした黒髪が風になびく。
相沢伊月。
やっぱりあの子だ。イスを借りにきた背の高い子。
つい、じーっと見つめていたら、相沢くんと目がバチッと合った。
「あ、あれ? こっちに来るよ」
あわてたように湖奈ちゃんが言う。
相沢くんがボールを胸の前でシュルルルと回しながら、こちらへ向かってきた。
わわっ。しまった。見過ぎちゃった?
相沢くんは私の目の前に来ると、ピタリと足を止めた。
「……この前、邦楽部にいた子だよね?」
「う、うん」
「イス貸してくれてありがと。君……名前、なんだっけ?」
「私は、三組の花瀬みおり……です」
ぺこりと頭を下げると、相沢くんもあわててぺこりを返してきた。
「あのさ、この前さ……」
相沢くんは言葉を切って、うーんと考え込んだあと、空を見上げた。
となりの湖奈ちゃんは落ち着かないように、私と相沢くんの顔を見くらべてる。
「あの……。言いにくいんだけど……」
相沢くんが顔を赤くしながら、髪をわしわしっとかいた。
それから何かを言おうとして、やめて、下を向いてしまった。
そんな相沢くんの様子を見た湖奈ちゃんがハッとする。
「ちょ、ちょっと、みおりちゃん! これってもしかして……コクハクってやつじゃないのっ⁈」
湖奈ちゃんが私の袖を引っ張りながら、小声で耳打ちしてきた。
「いや……そんなことないと思うけど、この前、会ったばかりだし」
「ううん。きっと、あれだよ! ひとめぼれってやつ!」
湖奈ちゃんは両頬に手を当てて、顔を赤く染めた。
……ちがうと思う。
少女マンガ好きの湖奈ちゃんは、なんだかワクワク顔……
相沢くんはと言うと、まだ下を向いて、何やらブツブツ言ってる。
なんだろ。この微妙な状況……
変な空気に耐えかねて、立ちあがろうとした時、
「あのっ、おばっ……オバケって信じる?」
突然、相沢くんが大きな声を出した。
「え」
想像とちがったセリフだったのか、湖奈ちゃんが目を点にする。
「いや……その……オバケ、信じるかなって……いや、別にいいんだ。そんな保育園児みたいなこときいてゴメ……」
「信じるよ」
言葉を遮るように断言すると、相沢くんがキョトンとした顔で私を見た。
「私はオバケ、信じてる」
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