3. バレー男子と私

1/1

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ

3. バレー男子と私

 週が明けて月曜日のお昼休み。  お弁当を食べたあと、私と湖奈ちゃんは中庭のベンチで雑談中。  木陰のベンチを選んだけど、座っているだけで汗がふきだしてくる。  湖奈ちゃんが汗をハンカチでぬぐいながら、パタパタと手であおいだ。 「みおりちゃん、部活どう? 先週入部したんでしょ?」 「うん。先輩がすごく優しい人で、うまくやっていけそうだよ」 「そっかぁ。良かったね。先輩がどんな人かってすっごい重要だもんね」 「うん。湖奈ちゃんはバレー部入ったんでしょ? どう?」 「なかなかきびしいよ。もうアップの体育館五周ランニングでへとへと」 「うぇぇぇ……私だったら絶対無理」  うわぁ。想像するだけで、足が痛くなってきて気分が悪くなる。  湖奈ちゃん、そんな練習してるんだ。すごいなぁ。 「そうそう、バレー男子ですっごい子いてさ。背が高くて、ジャンプ力あるし、動きは機敏だし、もう絶対エース確定だよ。五組の相沢伊月(あいざわいつき)って言う子。知ってる?」 「相沢……伊月……」  あっ。きのう、邦楽部の部室に来た子だ。 「相沢くん、すでに春休みから部活に顔出してたんだって。すごいよねー……あ、ウワサをすれば」  湖奈ちゃんの視線の先をたどると、校舎の方からボールを抱えた男の子が歩いてきた。  きりっとした眉に勝気そうな瞳。サラッとした黒髪が風になびく。  相沢伊月。  やっぱりあの子だ。イスを借りにきた背の高い子。  つい、じーっと見つめていたら、相沢くんと目がバチッと合った。 「あ、あれ? こっちに来るよ」  あわてたように湖奈ちゃんが言う。  相沢くんがボールを胸の前でシュルルルと回しながら、こちらへ向かってきた。  わわっ。しまった。見過ぎちゃった?  相沢くんは私の目の前に来ると、ピタリと足を止めた。 「……この前、邦楽部にいた子だよね?」 「う、うん」 「イス貸してくれてありがと。君……名前、なんだっけ?」 「私は、三組の花瀬みおり……です」  ぺこりと頭を下げると、相沢くんもあわててぺこりを返してきた。 「あのさ、この前さ……」  相沢くんは言葉を切って、うーんと考え込んだあと、空を見上げた。  となりの湖奈ちゃんは落ち着かないように、私と相沢くんの顔を見くらべてる。 「あの……。言いにくいんだけど……」  相沢くんが顔を赤くしながら、髪をわしわしっとかいた。  それから何かを言おうとして、やめて、下を向いてしまった。  そんな相沢くんの様子を見た湖奈ちゃんがハッとする。 「ちょ、ちょっと、みおりちゃん! これってもしかして……コクハクってやつじゃないのっ⁈」  湖奈ちゃんが私の袖を引っ張りながら、小声で耳打ちしてきた。 「いや……そんなことないと思うけど、この前、会ったばかりだし」 「ううん。きっと、あれだよ! ひとめぼれってやつ!」  湖奈ちゃんは両頬に手を当てて、顔を赤く染めた。  ……ちがうと思う。  少女マンガ好きの湖奈ちゃんは、なんだかワクワク顔……  相沢くんはと言うと、まだ下を向いて、何やらブツブツ言ってる。  なんだろ。この微妙な状況……  変な空気に耐えかねて、立ちあがろうとした時、 「あのっ、おばっ……オバケって信じる?」  突然、相沢くんが大きな声を出した。 「え」  想像とちがったセリフだったのか、湖奈ちゃんが目を点にする。 「いや……その……オバケ、信じるかなって……いや、別にいいんだ。そんな保育園児みたいなこときいてゴメ……」 「信じるよ」  言葉を遮るように断言すると、相沢くんがキョトンとした顔で私を見た。 「私はオバケ、信じてる」
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加