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雨が降ったから
私の名前は、小萩(こはぎ)。
突然だけど、私、人さらいに遭っています。
時を少し遡る。
深夜に仕事が終わり帰宅した。シャワーを浴びて寝ようとしたけど、無理だった。秋の風を感じたくて散歩に出かけた。眠れないんだ。いつからだろう、あまり眠れなくなったのは。
人通りはあまりない。それは私がそんな場所を家に選んだから。コンテストで優勝して上京した時から家は何度も変わった。プライバシーなんてあるもんじゃない。いつの間にか家がばれる。週刊誌のカメラが張り込んでいる。熱愛疑惑。事務所からの注意。
しかも私はそれに見合うような充実を仕事に持っていない。周りが勝手にコンテストに応募した。そして優勝。他にやりたいこともないし、まあ一回やってみよう、とこの世界に入った。今や私は有名人。どこに行っても何をしても誰かが見ている気がする。私の為に仕事が存在するんじゃなくて、仕事の為に私が存在しているみたいだ。
私はとぼとぼと歩いた。せっかくの秋なのに、月も星も見えず、空はどんより曇っていた。風が吹いて、小萩のチャームポイントの長い黒髪が揺れた。
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