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汝、死神と契約せし乙女
鉄格子の向こうには灰色の空が見えていて、白いものがちらついている。道理で寒いはずだと己の両手を見れば、細かに震えていて、吐く息も白かった。息を吹きかけたところで冷たい足先まで温まらない。寒い、とぽつりとこぼしたらとてつもなく寂しい気持ちになった。
『ヴィオレッタ』
骨の手が、毛布を差し出してくれた。彼はいつの間に側に来ていたのだろう。
「ありがとう」
ヴィオレッタは毛布を受け取って己の身体をくるむと、隣で立ったままの男を見上げた。
骸骨に黒い外套を纏った彼は、死神だ。人に死を運ぶ存在で、人々から怖がられている。だがヴィオレッタにとっては、幼い頃から共にいてくれる唯一の家族のような存在だった。家族。ヴィオレッタは苦いものを思い出して、浮かんだ考えを振り払う。
死神は普通の人には視えないらしい。なぜか、ヴィオレッタには昔から視えていたけれど。
視えていてよかったと思う。ラザロの牢獄はあまりにも寒いから、たとえ死神でも隣にだれかがいるぬくもりを感じられるから。
ヴィオレッタは、今日の日付を思い出し、あとどのくらいで牢獄から出られるかを数えた。
「あと、一年と三月と五日……」
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