4人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうか。そうだよな」
「何だい。一人で納得しないでくれよ」
子供達もミヤという人について、特に疑問に思っている風ではない。何だか置いてけぼりのようで面白くなかった。
「ミヤというのは私の妹ですよ」
教えてくれたのは与次郎さんで、今度は僕がきょとんとする番だった。
「え? でも、妹さんはなきこでしょう? 妹がお二人いるんですか?」
「ははは、違いますよ。私に妹は一人だけです」
訳が分からない。なきこと呼んで探したと、確かに与次郎さんは言った。なのに名前はミヤだと言う。
与次郎さんは穏やかな表情を崩さず、少し首を傾げた。
「そうですなあ。ワラメというのは、実は元々人間でしてね。これが大層、不憫な女だったらしくて。辛いことが重なった挙句、化け物になってしまった。人を攫って喰う化け物ですよ。恐ろしいでしょう」
でもね、と与次郎さんは言葉を区切る。
「平気で人を殺すようになったワラメですが、全く人の情がなくなったわけでもなかった。ワラメにはね、人間だった頃に妹がいたんですよ。目に入れても痛くない程可愛がっていたそうなんですが、この妹はまだ若いうちに死んでしまった。ワラメは嘆き悲しんで、それで化け物になってしまったんです。けれど今でも妹が恋しいらしく、他所の家の妹を見ては羨ましくって羨ましくって、それで攫ってしまうのだそうですよ。他所の家の妹を」
与次郎さんは伏せた顔に憐憫を滲ませる。
「だが、ワラメには勝てない相手がいた。村には強い霊験を持つ巫女がいたそうで、彼女にだけは敵わなかった。ワラメは巫女の名前の【なきこ】と聞くと逃げて行く。だから、妹となる女の子は、幼い時分のうちは【なきこ】と呼ばれるんですわ」
最初のコメントを投稿しよう!