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2話
山田君は二階の一室を宛てがってくれた。表通りに面した部屋で、ちゃぶ台と畳まれた布団以外には何もない。質素なものだが、畳も窓の棧もよく磨かれている。突然の来訪だったのだから、普段から使われていない部屋でも掃除をしているのだろう。
山田君が勤勉な質とは想像し難いので、おそらくなきこちゃんがやっているのだ。
まだ子供なのに偉いものだなあ、と感心しながら窓辺にドカリと腰を下す。窓を開ければ、温い風が頬を撫でた。
そういえば、と先程の山田兄妹の会話を思い出す。
山田君が言っていたワラメとは何だろう? この辺にいる動物だろうか。気を付けろと注意するということは、人に危害を加えるものなのだ。そんなものがいるというのに、女の子を一人で歩かせて大丈夫なのか。
しばらくはそうして取り止めもなく考え事をしていたが、にわかに咽喉の渇きを覚えた。生憎水筒は既に空だったので、水を貰おうと立ち上がる。
階下に降りた僕は山田君を呼ぼうとしたが、硝子戸の開く音に遮られた。
「おおい、京也あ。いるかあ」
玄関には青年が立っていた。筋肉質で大柄な男で、作業服を着ている。見たところ左官のようだった。
青年は僕を見とめると、ポカンと口を開ける。ややあって、ひらめいたとばかりに手を叩いた。
「アンタひょっとして、泊り客かい」
「ええ、そうですが」
隠すこともないので正直に答える。
「そうかそうか。ああ、ここに泊まる客は珍しいもんだから、つい。悪い、あ、いや、すみません」
青年はわざわざ言い直して謝罪する。頭まで下げるものだから、僕の方が凝縮してしまった。
「それで、京也……ああっと、ここの息子はいますか」
この宿の息子というと山田君のことだろう。僕も彼を探していたので返答に急した時、廊下からドタドタと物音が近付いて来た。
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