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山田君が言い終わるやいなや、子供達がみーせーてーと合唱する。
山田君の言う絵に、心当たりはあった。僕は釣りをしにあちこちへ出向くのだが、その時に絵を手帳に描いている。餌に獲物がかかるまでの手持ち無沙汰な時間を使って、川の風景や水を求めてやって来た生き物なんかを、絵にしたためていた。
素人の手遊びだから自慢できる出来ではない。恥ずかしいのに嫌だ見せろとせがまれて、結局折れてしまった。
「うわあ」
「きれー」
「すごお」
万年筆で描いたものだから色はない。味気ないものなのに、口々に褒められてこそばゆかった。年甲斐もなくモジモしてしまって、我ながら気持ち悪い。
その様子を山田君がニヤニヤと笑っている。ははん、このために子供達に話したな。
意地の悪い山田君を睨んだが、彼はどこ吹く風である。僕が臍を噛んでいると、一番歳上の男の子が話しかけてきた。
「あの、この絵を貰えませんか」
男の子は手帳を指して言った。野良猫が描いてあるページだった。
僕は予想だにしない台詞に目を瞬く。それを拒否の反応と受け取ったのか、彼は再度お願いしますと言い募った。
「こんなのでいいなら、あげるのは構わないけど」
「本当ですか!」
男の子は心底嬉しそうにする。そわそわと落ち着かない様子に苦笑して、僕は野良猫のページを破いた。
「ありがとうございます!」
彼は小さい紙片を両手で受け取ると、ペコリと頭を下げる。
「妹が猫すきなんです。お土産にしようと思って。風邪をひいてしまったから、今日はいないんですけど。これを見せたらきっと、なきこも喜びます」
そう言って破顔する彼につられて、周りの子達もよかったねーと笑った。
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