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4話
またなきこだ。
いったいどういうことだ? 三人は兄弟なのか?
男の子はなきこちゃんより少し歳上に見える。しかし、この宿の者ならお土産という言い方は妙な感じがした。敏三君の口振りも、家族に対するものではなかったように思う。
兄弟でないなら、どうしてなきこちゃんの兄だというのだろう。
横目で山田君を窺ってみても説明する素振りは見せない。豪を煮やして問い正そうと口を開いたのと、硝子戸が叩かれたのは同時だった。
戸の前には老人がいて、こちらを覗き込んでいる。日の焼けた黒い顔に、皺が深く刻まれていた。
老人に気付いた子供達は途端に喜色満面になり、おいでおいでと手招きする。老人も笑顔になり、会釈をしながら中へ入ってきた。
「随分賑やかだねえ」
いかにも好々爺とした老人は目尻を細めて、皺だらけの顔を更にクシャッとさせる。
「与次郎じぃ!」
「絵を見せてもらってたの」
「これは猫だよ」
「もらったー!」
「私もほしー」
子供達は互いに競って老人──与次郎さんに説明した。矢継ぎ早に話すので、何を言っているのか要領を得ない。
しかし、与次郎さんは聞き返すこともなく、微笑んで頷いている。遮られた格好になった僕は、所在なく子供達と与次郎さんのやり取りを眺めた。
「そういえば」
僕と同様に黙っていた山田君だったが、ふいに与次郎さんへ話を振る。
「与次郎さんにも確か妹がいたよな」
妹という単語に、我知らず肩がピクリと反応する。まさか、と思って与次郎さんを注視した。
「与次郎さん、実はこの人うちの泊り客なんだけどさ。ちょいと妹さんの昔話してやってくれよ」
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