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5話
「私はなきこ、なきこ、と呼びながら声の場所を探しました。するとね、背後でガサリと物音がした。驚いて振り返ってみれば、妹がへたり込んでいる。でもね、そこにはさっきまで誰もいなかったはずなんですよ。なのに、泣き腫らした妹が呆然とした様子で座っていた。どこにいたんだと訊ねれば、ずっとここにいたと言う。兄ちゃんこそどこに行っていたのと怒られましたよ。それで、私はすっかり怖くなってしまいましてね。這々の体で家まで帰り、父に事のあらましを話しました。すると、父はサッと青ざめまして」
──それはワラメの仕業だろう。
「と、そう言いました」
「ワラメ?」
ずっと黙っていたが、耳慣れない言葉につい聞き返してしまった。いや、僕は一度聞いている。
そうだ。なきこちゃんに向かって山田君が言っていたんだ。ワラメに気をつけろと。
「ああ、他所の人は知りませんよね。この辺に伝わる、まあ、妖怪みたいなものです。子供の頃はよく脅されたもんですよ。夜中に出歩くと、ワラメの笑い声が聞こえるぞって」
すると、子供達の一人が元気よく手を挙げた。
「あたし知ってるー! ワラメに会ったら、連れて行かれちゃうんだよ」
女の子が得意げに答えるのに続いて、僕も私もと子供達が話し始めた。
「攫われちゃうの」
「女の妖怪なんだよ」
「母ちゃんも会ったことがあるってー」
「そんなの嘘だい」
賑やかに纏わりつかれて苦笑いを浮かべていると、嘘だと言われた子が食ってかかる。
「嘘じゃないやい」
「そんなわけない」
「ほんとだもん」
「嘘つき」
言い合う二人に僕はたじたじすることしかできない。どうも子供の扱いには慣れなかった。
情けない僕を見かねたのか、山田君が割って入ってくれる。
「嘘じゃないぞ。今度ミヤさんにも聞いてみたらどうだ?」
「そのミヤさんってのは?」
知らない人物の名前に訊ねると、どういう訳か山田君はきょとんとした。一拍置いて、ああ、と頷く。
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