113人が本棚に入れています
本棚に追加
心に生まれた濁った感情に、ああと声を上げそうになる。稜太郎はこんなにもざわついた思いを抱いたまま舞台に上がり、三田村に挑んでいたのだ。
後悔と申し訳なさが一緒くたになって悠希の首元をぎりりとと締めつける。
髪を梳いていた手を止めて、ゆるく拳をつくった。
「ごめんね、稜太郎」
稜太郎の頭がかすかに動いた。けれども悠希の手がふたたび動いたから、こちらを振り向くことはなかった。
「俺も、稜太郎が誰かに頭撫でられたら嫌だ……。飲みの席だからいいだろうって軽く考えていたけど、ぜんぜん良くない。良くなかったんだ……」
取るに足らないことと見逃せないことは表裏一体だ。自分が見ている世界と相手の映る世界が同じだなんて保証はどこにもない。だから、言葉を尽くし、仕草を通して伝えあう。今日も、明日も、その先も。
「次、三田村さんに頭撫でさせたらその場でキスするからな?」
稜太郎は悠希の身体をゆるく引き剥がすといたずらっぽく笑った。
「いいよ」
「え」
驚く稜太郎に、自ら唇を寄せに行く。
「俺の恋人は稜太郎ですって自慢させて」
涙のあとに交わした口づけは、すこしだけしょっぱくて、とろとろに甘い。
最初のコメントを投稿しよう!