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六畳一間にそぐわない大きな液晶テレビの圧が背中にのしかかる。初めて来た部屋というのも緊張に拍車を掛けた。
菅原悠希は周りの景色を振り切って、指先に全神経を集中させた。目の前に座っている男は、床にあぐらを組んで目をつむっている。悠希の指先が男の眉に当たるたび、ぴくりと男のまぶたが動く。その度に悠希の鼓動は速くなった。
横から従兄弟の菅原智也の鋭い視線が頰に突き刺さる。
「そう、コームでとかして……」
「う、うんっ」
正直頭のなかは真っ白で何をやっているのかわからない。ただ智也の言うことを必死になぞるだけだ。手にする小ぶりのシザーをコームの上に当てて、数ミリ単位で眉毛を整えていく。
「うん。いい感じなんじゃない?」
智也が悠希のそばに寄る。頰が触れるほどの近さに加えて、甘い香水の香りが鼻をかすめて胸が跳ねる。動揺を悟られないように少しだけ距離を取る。
「そ、そうかな。誰かの眉カットなんて初めてで自信ないや……」
「初めてとは思えない出来栄えだよ。やっぱ悠希は器用だよな」
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