老婆の子

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老婆の子

暑すぎず、寒すぎないちょうどいい曇り空の日。 特に買う物は決めていないが、コンビニでも行こうと外へ出た。 古い銭湯の前を通り大通りへ向かって歩いていると、少し前の方にある細い脇道から一人の女性が出てきた。ごわごわした髪が肩甲骨くらいまで伸びており、少しだけ黒が混ざった白髪頭。後ろ姿しか見えないが、なんだか少し不気味さがあった。その女性は何かを大事そうに抱えており、少し揺らすようにしながらそれに話しかけていた。あぁ、きっと赤ちゃんだ。孫とかかな。可愛いだろうなぁ。 私はそう思いながらその女性を追い越した。きっとむっちりしていて可愛いんだろうなとかわくわくした気持ちだった。そしてその女性とすれ違う時に赤ちゃんの方を見た。  息をのんだ。そして歩く速度を上げて急いでコンビニへ入った。 その女性は老婆だった。 90歳近い老婆が青い布に包まれたものに話しかけていたのだ。 あの老婆が抱えていた青い布の中身は赤ちゃんじゃない。猿の人形だ。 幼児のようなサイズの猿の人形をまるで赤ちゃんのように抱えていたのだ。 顔は薄汚れていて目は取れかかっていた。 嫌なものを見てしまった。気分は最悪。 適当にコンビニの中をまわり、お菓子や飲み物を買って、帰りは少し遠回りになるが違う道で帰ることにした。 家に帰り夕飯の支度をする母に先ほど見かけた老婆の話をした。 「最近変な人増えたわね、私もこの前変な人見たわ」 母も何日か前に変な人を見たらしい。 今日はわりと涼しいが、最近夏が近づいてきて暑くなってきているから変な人も出るのか。 私たちはそのくらいに考えていた。 それからしばらくの間はその老婆と出会うこともなく、いつもと変わらない日常だった。  
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