3.スパーク花火

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3.スパーク花火

「本当にあっという間だな」  黒焦げになったすすき花火をバケツに突っ込む。  ジュッと音がして、辺りは再び虫の声と暗闇に包まれた。  最後のたっちゃんの言葉が胸に引っかかる。俺は一体、何が好きだったのか。  急き立てられるように次の花火に手を伸ばした。  次の花火は四方八方に火花を散らす、スパーク花火だ。緑色の閃光が散らばる。  俺は息を殺して辺りを見渡した。次はだれに会うことができるんだ? 「こら。花火を持ちながらキョロキョロしないの」  優しそうな、ゆっくりとした口調に俺は固まった。 「……おばあちゃん」  次に目の前に現れたのは祖母だった。白髪だらけの髪と垂れ下がった目元が懐かしい。 「絵描くの辞めちゃったんですって?あんなに上手だったのに」  俺は両手でしっかりと花火を持ちながら祖母を目に焼き付ける。  思い出した。  俺は昔、絵を描くのが好きだった。仕事や私生活に追われてすっかり忘れていたのだが……。ただ、人前で披露するのは気恥ずかしくてずっと隠してきたのだ。今では全くと言っていいほど描いていない。  小学生の時、たっちゃんにだけは打ち明けていたみたいだ。 「まあ……俺よりうまい奴なんて沢山いるし。将来何の役にも立たないから」 「そんなことないわよ」  祖母が力強い声で否定した。まるで話がかみ合ってるようだけど違う。確か昔も、今言ったような内容を答えた気がする。 「得意なこと、好きなことっていうのはね。貴方を救うのよ。だからね、絶対に捨てちゃだめ」 「……!」  心が震えた。確かこの時、進路に悩んでいたはずだ。社会人になった今、関係ないと思っていた言葉が突き刺さる。 「専門の学校に行かなくても、有名にならなくても、お金にならなくてもいい。続けなさい。そのことがきっと……貴方の人生に意味を持たせる」  何故か自然と目頭が熱くなる。そうだ……祖母は誰よりも俺の成長を喜んでくれていた。 「おばあちゃん……ごめん。俺……」  つまらない大人になりました。絵はとっくの昔に捨てました。自分が何をしたいのかも分からない、カッコ悪い大人です。おばあちゃんが想像していたような絵描きにはならなかったし、仕事で大成功を収めたわけでもない。 そう、謝ろうとした時だった。 「どんなに辛くとも、どんなに悩んでも人生は一度きり。自分の納得することをしなさい。どんな大人になってもおばあちゃん、応援してるからね」  祖母の優しい笑顔に俺は一瞬言葉を失った。軽く唇を噛むとかすれ声になりながら答える。 「……ありがとう。ありがとう、おばあちゃん」  俺がどんな言葉を答えようと届かないのは分かってる。それでも礼を言わずにはいられなかった。  花火が消えると同時に祖母も姿を消す。  俺はいつまでも祖母がいた煙の向こうを見つめていた。
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