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腰を下ろした公園のベンチで、意味も無くスマホを引っ張り出してまたも時間を確かめる。初夏の日差しはさんさんと眩しく、画面がやたらと見辛かった。とはいえ何度見ようがそう変わらない。待ち合わせた時間からまだ三十分も経っていない。背中を深く預けると、風雨に晒された背もたれは小さく軋んだ。
『そういう付き合い方、ほんとむかつく。それだけ』
キリ、と耳障りに歯が鳴って、慌てて俺は顎を緩めた。今更思い返して何になる。済んだことだ、終わったことだ。きめ細やかに練りあげておいたデートプランはその一欠片も果たせなかった。けんもほろろ、取り付く島も無い。そんな言葉の使いどころをこの身をもって学ばされた。言い放つが早いが背を向けて足早に去って行ったあいつは、今や俺の彼女では無かった。多分今日よりずっと前から。
「くっそ……」
すっきりとした晴天を木々の緑が縁取り、遊具のあたりからは幼児のはしゃぎ声が聞こえてくる。絵に描いたような穏やかな光景がどうにも胸を逆撫でて、俺は思わず目元を覆った。
『元カノ? 片思い? まぁいいんだけどさ、知弘は誰を見てるわけ?』
後悔は先に立たないものらしい。遮ったはずの光景に代わり目の前に浮かんできやがったのは、固く腕組んだ彼女のしかめ面。いや、元カノだ。ついさっきから。こめかみに指先が食い込んだ。
「好き勝手言いやがって」
吐き捨てた言葉は刺々しかった。腹のあたりのむかつきと喉に覚えたいがらっぽさは俺の頭に血を上らせた。リュックに突っ込んでおいたペットボトルを軽くへこむのも構わず引っ張り出す。
「不味」
派手に流し込もうと煽ったはずが、たった一口でうんざりするなんて。目の前でゆらゆらと振ってみたけど、どこからどう見ても自販機でお馴染みの紅茶だった。素人が雑に淹れたわけじゃあるまいし、ペットボトル飲料の味がそうそうブレるはずは無いのに。この分じゃ、用意しといた諭吉を今からすっからかんにしたところで誤魔化すこともできないだろう。
「あーあ……」
もう一度スマホを取り出したけど、時間はナメクジみたいにのろまだった。一ちぎりの雲も無い青空を仰ぎ見て、俺は息をつくしかなかった。
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