いい加減にしてよ、姉さん

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「ちゃんと見つけんだぞ、ねーちゃんみたいなイイ女」  体温が交わるくらい抱き締めて、ほつれてしまうまで包み込んで、微睡みの一歩手前まで誘った俺にこんな言葉をかけてくる。姉さんはバカだ。本当に。 「……胸を貸し付けてくる女の子は嫌なんだけど」  甘い柔らかさに縋りついたまま返事を濁した俺も俺だ。血は争えないってやつなのか。 「グチグチ言ってると行き遅れるぞ~」  しっかりと俺を捕まえたまま、姉さんは俺の刈り上げをわしわしと弄くってきた。遠慮の無い手つきに腹がざわつく。 「うっさい。何だよ男の行き遅れって」  多少は棘の戻った切り返しに姉さんは小さく笑うのみ。そりゃそうだ。赤ん坊みたいに抱き着いたまま口だけ尖らせて何になる。首筋のあたりがじりりと熱い。 「ま、どーにもなんなくなったら貰ってあげっから」  姉さんはあっけらかんと言い放ちながら俺の頭をまた抱き寄せた。にへらとした口元が目に浮かぶ。 「逆だろ、それ」  言い返した、というよりは聞こえてきた。耳を打って、骨に響いて、初めて俺はその言葉を知った。 「ふぅん、そこ?」  悪戯っぽく姉さんが茶化す。腕だけじゃなく、脚だけでもなく、その身全てで俺のことを包み込みながら。肩甲骨が浮き出した肩を、かっと温度を上げた頬を、黙りこくったバカな俺を抱いてあやしてくれながら。 「ねーちゃんが一番って思ったら、いつでも。ね?」  密やかな囁きに俺は何も言わなかった。何一つ言えやしなかった。いい加減にして欲しい。だってこんなの、あまりにも。
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