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すてきなじかんはおわらない!
じんわり汗ばむ体に、素直な不快感を感じて目覚める。まだ半分夢にいる耳に、流れ込んだのは洋楽だった。この蒸し暑さに似合わない、壮大なバラードである。
何の疑問もなく耳を委ね――不意に感覚が冴える。音の正体に気付くと同時に、混ざる啜り泣きにも気付いた。
続きに風鈴が、それから蝉の声が、と次々音が輪郭を得ていく。目を開くと、昼光に負けない明るさがあった。
「柚全部見たの!?」
「見た……良い話だった……」
身を起こし、柚とテレビを素早く見る。予想通り、テレビではエンディングが、柚の目からは涙が流れていた。
珍しく感情を露にする様子に、酷く心が擽られる。昨夜より、何倍も大きく疼く。突っ走る意思は、許可の申請より先にリモコンを取った。
「私も見たい! よし、今からもう一回見よ! 巻き戻して良い!?」
「え、でも電気屋さん呼ばないと。見ながら迎えるの?」
「見てから呼ぶ!」
「今日もかなり暑いよ?」
「いいの! お願い!」
巻き戻しボタンに手をかけたまま、赤らんだ瞳を見つめる。円く可愛らしい目が、穏やかに微睡んだ。
「……もう、仕方がないなぁ。でもご飯食べながらでも良い? 徹夜したらお腹空いた」
「あっ、じゃあ冷やし中華にしようよ!」
昨晩から食べたいと思ってたんだ〜。そう告げる前に、瞳が更に穏やかになる。
「いいね、私も食べたいと思ってた」
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